バプテストの信仰

わたしたちがイエスを主と告白してクリスチャンとなる時、バプテスト教会員となることをあまり意識しませんが、様々な人間的出会いがあるように、特定の教派に属するようなことになるということも私たちの信仰の事実なのです。教派とは選択の幅のある信仰の豊かさから由来する私たちの信仰の特徴のことです。それゆえ、教派は自らが相対的存在であることを自覚し、対話に開かれている限りよいものなのです。
 わたしたちの信仰は聖霊の出来事としていつも新しい状況の中で具体的に言い表されて生きたものとなります。バプテスト教会もバプテストの歴史の項で言及されているようないくつかの信仰告白を明らかにしてきました。しかしその時々の信仰告白はその具体性のゆえに過ぎ去るものであり、絶対化、固定化されえないものです。バプテスト教会は特に信仰告白のこの主体的、歴史的性格に注目し、教派として各個教会を束縛するような信仰告白を持つことを避けてきました。とはいえその歴史を顧みる時、そこには信仰の共通基盤があるのです。その特色は聖書に根ざした自発的、主体的信仰告白と各個教会主義及び政教分離の主張などです。以下それらを略述します。
1.聖書の重視
 わたしたちは教会と信仰生活の基準をわたしたちの主であるイエス・キリストの救いを証言する新・旧約聖書におきます。旧約聖書はイエスキリストの到来を約束し、新約聖書はその成就を証言しています(ヨハネ5・39)。確かに聖書もまた教会が生み出した歴史的証言です。それゆえ、歴史的文書としての聖書の文字そのものを絶対化してはなりませんが(IIコリント3・6)、み霊の導きによって書かれ、キリストを証言するものとして(Iコリント2・10~16、IIテモテ3・16)、わたしたちにとって唯一の規範です。それゆえ聖書は、その後、歴史的に発展した教理や信条などを測る基準であり、わたしたちは聖霊の導きによる自由な聖書の読みを重んじます。また、固定化した教理や信条、あるいは教憲教規などを持ちません。
2.キリスト中心
 わたしたちはこの世界のただ中でかつて一度、すべての人のために起こったイエス・キリストの出来事の中に神がご自身を現し、わたしたちに出会われたと信じます。このキリストとの生きた交わりこそがわたしたちの信仰の中心です。確かにキリストは媒介なしにではなく、教会を通して、また教会の説教や礼典などを通してわたしたちに伝達されますが、そのようなキリストを指し示すもの(媒介)が、指し示されるお方(キリスト)、の上位にくることは認めません。
3.信仰者バプテスマ
 神の一方的恵みとしての和解の出来事は、わたしたちの信仰の応答によって救いの出来事になります(マルコ5・34 ローマ3・22)。それゆえ、バプテスマを受けて教会員となるためには信仰による新生が先立ちます。そこでわたしたちは幼児洗礼を避け、彼らが成長し、自らの応答が可能となることを祈り、待つことを選択します。自覚的信仰者の契約共同体こそ新約聖書の教会の真の姿です(Iコリント1・2、マタイ18・20)。
4.浸礼の尊重
 バプテスマには歴史的に浸礼、滴礼、灌水礼の形式があります。
 しかし、バプテスマとは元来、「水に沈める」ことを意味し、その方法は明らかに浸礼です。それによって、キリストとともに死んで、葬られ、共に復活にあずかることを(ローマ6・3~11)最もよく象徴しうると信じます。
5.万人祭司と民主的な教会運営
 キリストから教会に委託された福音宣教の使命は教会を形成するクリスチャン一人一人によって担われます(Iペトロ2・5~9)。その際各自の召命、賜物、職務は異なりますが(Iコリント12章)、その違いは身分的上下関係や身分的区別ではありません。バプテストが理想とする教会運営は牧師と教会員が共に平等の立場で参与するものですが、職務の平板化や無秩序な数の力の絶対化に陥らぬよう注意せねばなりません。
6.各個教会主義
 各個教会の会衆が自主独立の主体であって、各個教会間のいかなる支配関係も認めません(IIコリント1・24)。この各個教会主義は各個教会を超えた監督や長老の支配・干渉を拒否しますが、各個教会間の閉鎖的あり方や孤立主義を意味せず、真に自立した教会として地方連合と連盟などを通しての、協力伝道のための自由で対等な連帯を喜びます。
7.政教分離の原則
 政教分離の原則は近代においてバプテストの先達が勝ち取った重要な嗣業であり、世の終わりに至るまでわたしたちの課題であり続けます。宗教と政治の混同、教会と国家との癒着は人権を抑圧し、批判を許さぬ国家権力の神聖化と教会の世俗権力化をもたらします(マルコ12・17)。しかしこの原則は信仰者の政治への無関心や無関係を意味せず、かえって国家が神のみ心にそうように祈り、もし国家が人間の思想、良心及び信教の自由に介入するときには教会はみ言葉に根ざしてこれと闘わねばならないのです(使徒5・29)。
出典
日本バプテスト連盟 『教会員手帳』改定三版 2010年。